令和5年度 第57回学位記授与式を挙行しました

2024年03月15日

本学 福山記念館大ホールにて、令和5年度芦屋大学大学院・芦屋大学の学位記授与式を挙行しました。

授与式に続き、学長より卒業生一人ひとりに学位記が授与され、吹奏楽による卒業記念セレモニー、ホテルオークラ神戸に移動し謝恩会が執り行われました。

卒業生並びに修了生の皆様、おめでとうございます。教職員一同、皆様のご活躍を心より祈念いたしております。

 

令和5年度 学位記授与式 学長式辞

 みなさま、ご卒業おめでとうございます。本日、令和5年度の芦屋大学、ならびに芦屋大学大学院の学位記授与式をこうして無事挙行することができましたことを、皆さまと共に喜びたいと思います。卒業生のみなさんも誇らしい思いでいっぱいでしょう。これまで皆さんをいつくしみ、この晴れの日を心待ちにしておられた保護者、ご家族、ご友人の皆様方にも心からお祝いを申し上げたいと思います。また本日は高島芦屋市長をはじめ、ご来賓の方々にご出席をいただいております。心より御礼申し上げます。

 本年は、能登半島地震という大きな災害で幕を開けました。多くの方が犠牲となり現地では困難な状況が続いています。心からの哀悼とお見舞いを申し上げたいと思います。今年の卒業生の皆さんは、大学生活の大部分をパンデミックの影響下で過ごされ、本来であればできたはずの活動が制限されました。災害や疫病という未曾有の経験は、一瞬にして、それまで自分たちが当たり前と思い込んでいた我々の「常識」を崩します。しかし一方で、皆さんは大学生という若い時期にこの劇的な出来事を経験し、「当たり前」が崩れた結果、「新しい生活様式」とよばれる、コロナ以前とは違う地平を見ているともいえます。

 皆さんがこれから羽ばたくのは、気候変動によって大規模災害が予想され、自然破壊、戦争の継続と、困難な課題が山積みの世界です。いつまた、今回のコロナのように疫病や大きな災害が、私たちの「ごくあたりまえの日常」を壊し、我々を混乱に陥れるやもしれません。しかし、我々人類の約40万年の歴史をふりかえると、疫病や大規模災害、そして戦争などの困難を、知恵と技術を駆使して幾度も乗り越え、世界を、人間の世界をゆたかにしてきたことが分かります。人間にはそのような素晴らしい能力があります。皆さんも自分たちにそんな力があることを信じていただきたいと思います。

 私は最近、『無一文『人力』世界一周の旅』という魅力的な本に出合いました。28歳になった著者は「世界中を自分の目で見ること」をめざして、旅に出ます。ただし、無一文で人力で、つまり徒歩か自転車で移動するというルールを決めます。宿も野宿か人の家の軒先です。こうして人につながらざるを得ない旅の途上での出会いからは、ぎりぎりの旅だからこそ見えてくる、人間の豊かさ、多様な人間性、可能性があります。私はこの本の一番のメッセージは、本人がごく普通と思っている自分の環境、一番身近な現実はえてして自分で気づいておらず、異なる価値観に出会ってわかるということだと思いました。

 人間はだれでも、自分を中心に世界を理解しています。何が現実か、何が大切なのかについて、自分が見て触れることのできる現実が唯一の本当のリアルなもので、それにもとづいて「何が大切なのかなんて当たり前で、わかりきっている」と思いこんでしまっています。しかし、実はその在り方は無数にあり、その違いはかなり大きいものです。異なる価値観を理解するには自分の思い込みを変えることが必要です。自分のリアルだけが本当なのではなく、他の可能性、ほかの選択肢があることを知ることを可能にするのは「学び」です。「学び」とはこの著者の旅のように様々な方法を駆使して多様な在り方を知ることです。それによって、自分の確信を批判的に顧みて、他の選択肢を見出すことができるようになり、自分の現実だけが本当なのではないのかもしれないと気づくのです。

 困難に見えるかもしれません。しかし、実は皆さんはすでにその経験をしています。パンデミックによって、現実は大きく変わり、大切なものも変化することを経験しました。それまで経験してきたリアルとは異なる世界があることを知り、それに適応したわけです。皆さんは異なる地平に適応できる経験を、異なる価値を自分のものとする経験を、すでに大学生という若い時代に果たしたわけです。

 さらに、最終講話で申しましたように、学びは大学で終わるものではなく、一生続くものです。世界にはさらに多様な現実、リアルがあります。ぜひ学びによって、世界の多様性を知り、想像力を、選択肢を広げてください。それは皆さんの今後の世界を、確実に豊かで、自由で、楽しいものにするでしょう。

 卒業後、日常生活は単純な繰り返しと会社への往復で、心躍ることは少なく、苦しい事もあるでしょう。そんな中、皆さんの力となるのは、この異なるリアルへの想像力だと私は思います。困難に直面した時、自分がこだわっていることは、唯一のリアルではない、全く異なるあり方が可能である、ということをぜひ思い出してください。それができれば皆さんの人生は、可能性にみちた素晴らしいものとなるはずです。

 皆さんのこれからの人生に幸多きことを心からお祈りし、私の式辞とさせていただきます。

令和六年三月九日
学長  窪田 幸子