非日常の中で自分のこころを守るために

非日常の中で自分のこころを守るために

芦屋大学 カウンセラー 中田千晶

令和6年1月1日に能登半島を襲いました能登半島地震におきまして、お亡くなりになられ
た方々、そのご家族、ご親族、関係者の方々に対しまして、心よりお悔やみ申し上げます
とともに、被災者の皆様に心よりお見舞いを申し上げます。
被災地域のみなさまの安全確保、そして一日も早い復旧・復興を衷心よりお祈り申し上げ
ます。
社会を揺るがすような大きな出来事があると、気持ちが沈んだり、不安になったり、眠れ
なかったりといったことが起こります。これは実際にその出来事に関わっている人にも起
こりますが、実際には関わっていない外から見ている人にも起こることがあります。
そんなとき、どうやって自分のこころを守ればいいのでしょうか。
1 実際に被災した場合
まず、実際に被災した場合、様々な不調が表れるのは<当たり前の反応>です。
災害は大きなストレスであり、ストレスがかかると人間のからだやこころは不安定に
なります。その結果、以下のような問題が起きることがあります。
・からだ……眠れない・食欲がない・体調が悪い
・こころ……不安や恐怖・イライラする・気持ちが落ち込む
そのほかにも、落ち着かなくてうろうろしてしまう、自分がなんとかしなければと頑
張りすぎてしまうなど。これらは大きなストレスにさらされた人間として、<正常な
反応>であり<当たり前に起こること>です。
そのため、慌てず、今はこうなるのが当たり前だと思うことが大切です。
多くの場合は時間の経過によって回復していくかと思います。
ただし、こういった症状がいつまでも収まらないときには注意が必要ですので、病院
など適切な場所に相談してください。また、あまりにもいつもと様子が違う人が周り
にいる場合には、こちらも専門家に相談してもらった方が良いかと思います。
心理学には、サイコロジカルファーストエイド(PFA)という考え方があります。こ
れは、災害や事故の発生時に必要となる応急的な心理的対処法の基礎知識をまとめた
ものです。災害時の心理的なケアに関わる様々な分野の人が使えるようなマニュアル
であり、治療ではなく自然な回復を支えるための支援をすることを大きな目的として
います。
ここではすべてを説明しきることはできませんので、興味のある方はぜひ調べてみて
ください。
2 実際の被災にはあっていない場合
東日本や阪神淡路の震災のときもみられたのですが、直接被害に遭われた方だけでな
く間接的に「テレビを観て」「インターネットを見て」ショックを受ける場合もあり
ます。
無関心ではいけないと情報を集めようとするあまり気持ちが不安的になってしまう、
テレビなどで被災地の情報が繰り返し流れることで自分の被災体験を思い出してしん
どくなってしまう、被災地の方々のしんどさを思うと苦しくなってしまう、何もでき
ない自分に自責感を抱えてしまう……。
これらの状況は「共感疲労」と呼ばれています。被災体験のある人・共感性の高い人
・テレビの情報を見続けている人などは注意が必要です。
共感疲労になると、無意識にからだに力が入ってしまい緊張が続くことで不眠につな
がったり、無気力・気分の落ち込み・イライラといったこころの問題が起こったりす
ることもあります。
そういった場合には、情報から距離を置くことが大切です。正確な情報を得ておくこ
とは大切なことではありますが、それで調子を崩しては本末転倒です。ニュースや
SNSを見る時間や回数を減らし、極力映像から離れて文字ベースで情報を得ることに

よってこころの余裕を持てる時間を確保しましょう。また、自分と他者との間の境界
線を意識することも重要です。自分が元気でなければいざというとき、周りの人を助
けることはできません。自分のこころの健康を第一にしたうえで、今の自分でも出来
る範囲のことを考えていくようにしましょう。
大きなストレスに対しては、セルフケアを知っていることもとても大切です。
規則正しい生活を心がけること、食事・睡眠をしっかりと取ることはすべてのベースとな
ります。これは被災地では難しいかもしれませんのでその場合は今出来る範囲で構いませ
ん。また、多少の運動など、自分で決めて自分で取り組めることをやってみるのも1つで
す。
さらに、周りの人に相談すること・周りの人とつながっておくことも重要です。孤独や孤
立はこころの不安定さを高めてしまいやすいもの。何も解決しなくとも、少し話をするだ
けでもこころの負担は軽減するかもしれません。
簡単なリラックス法としては、呼吸法と筋弛緩法というものがありますので良かったらこ
ちらも試してみてください。
―呼吸法―
1 お腹からゆっくり深く息を吸います。
2 そのまま3秒息をとめます。
3 お腹からゆっくり息を吐きます。
4 これを5分ほど繰り返します。
―筋弛緩法―
1 身体の各部位(首・肩・腕・手・お腹・足・顔)、全身に力を入れて10秒ほどその状
態を保ちます。
2 一気にストーンと全身の力を抜きます。
3 これを繰り返します。
もし気持ちの落ち込みやイライラを話せる人が周りにいない、どうしたらいいのか分から
ないといったことがあれば、お気軽にカウンセリングルームやほっとルームまで足を運ん
でみてくださいね。